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東京地方裁判所 昭和32年(ワ)5529号 判決

常磐相互銀行

事実

原告株式会社常磐相互銀行は請求原因として、遠藤謙吉は原告銀行外務員として無尽契約の募集及び無尽掛金の集金等の業務に従業中、昭和三十年四月三十日より同年五月十七日までの間に二十一回に亘り、原告銀行のために集金した無尽掛金合計金五十九万七千八百円を原告銀行に納入せずこれを費消し、よつて原告銀行に対し前記同額の損害を生ぜしめたが、賠償金として六万五千八百六十六円を支払つたのみで残額金五十三万一千九百三十四円の弁償をしない。ところで、被告鳥海吉造及び同村上吉男は何れも遠藤謙吉が昭和二十七年十二月十日原告銀行と雇傭契約を結ぶについて、また被告奈良輪武次郎は昭和三十年一月十一日遠藤謙吉と原告銀行との間の雇傭契約について、何れも遠藤謙吉の身元保証人となり、将来遠藤謙吉が原告銀行に対し損害を蒙らせ債務を負担した場合は、遠藤謙吉と連帯して賠償の責に任ずる旨の契約をなしたものであるが、遠藤謙吉は前記のとおり原告銀行に対し残額金五十三万一千九百三十四円の損害を賠償していないから、被告等はその身元保証契約に基き何れも連帯してその賠償の責に任ずべきである。よつて原告は被告等に対し、弁償残額金五十三万一千九百三十四円と、これに対する支払済までの遅延損害金を何れも連帯して支払うことを求めると主張した。

被告等は抗弁として、昭和二十九年十二月遠藤謙吉が原告銀行の無尽掛金を費消した事実があつたにも拘らず、原告は何ら保証人たる被告等に通知せず、使用者としての通知義務を懈怠したのであり、右通知がなされておれば被告等は身元保証契約を解除した筈であるから、本件に対する責は負わずその賠償支払をなす義務はないと主張した。

理由

証拠によれば、遠藤謙吉が昭和二十九年十二月原告銀行のため集金した無尽掛金二十万円余を費消した事実が原告銀行に発覚した際、原告銀行は身元保証人である被告鳥海、被告村上に何ら通知をせず、遠藤謙吉に弁償させただけで引続き雇傭し、唯身元保証人一名(被告奈良輪)を追加させたに止まることを認めることができる。従つて、右原告銀行は使用者としての身元保証人に対する通知義務を怠つたことが認められるが、「身元保証ニ関スル法律」第三条の使用者の通知義務の規定は、単に身元保証人に対して警告を為し、同法第四条の身元保証人の解除権を行使する機会を与えるに過ぎないものであるから、その義務懈怠を以て被告等の抗弁するように直ちに賠償義務が全く消滅するものと解することはできない。しかしながら、右通知がなされておれば、被告等において契約を解除するなり又は相当の手段をとり得たであろうことは明らかであるから、右事実は身元保証人の責任の程度を決定する上に斟酌すべきものである。なお、被告奈良輪武次郎については、遠藤謙吉が原告銀行より前記処分を受けていることを秘して身元保証を依頼したことが認められるからこの点を考慮し、何れも保証債務につき相当の減額をなすことが妥当と認められ、その保証債務は金四十五万円を以て相当額と認める。従つて、被告等は原告に対し、遠藤謙吉と連帯して金四十五万円を支払う義務があるといわなければならない。

よつて原告の請求は、右義務の履行を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余の請求は失当であるとしてこれを棄却した。

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